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第25回 日経アジア賞
審査を終えて
審査委員長 御手洗 冨士夫氏
(日本経団連名誉会長)

社会課題の解決 光る業績
日経アジア賞は今年で25回目の節目を迎えた。四半世紀にわたりアジアの様々な社会課題の解決に貢献し、人々の生活の向上につなげた人や団体を表彰してきた。この間にアジアの発展は著しく、世界経済や文化のけん引役を担ってきた。今回もアジアの経済や文化の発展に貢献し、地域が抱えるさまざまな課題を解決する活動をされてきた人を選出した。
経済部門では、東南アジアで配車サービスを展開するグラブの共同創業者、アンソニー・タン氏とタン・フイリン氏の業績を高く評価した。
マレーシアで創業してシンガポールに拠点を移し、配車サービスからネット通販の宅配や出前サービスに事業を拡大した。スマホ決済や動画配信も手掛ける。東南アジアの社会に大きな変革をもたらして多大な雇用を生み出し、貧困の解消や生活水準の向上につながった。
科学技術部門は、飲料用の水浄化技術で成果を上げたインド工科大学(IIT)マドラス教授のタラッピル・プラディープ氏の業績が光っていた。
飲料水精製のための脱イオン化の手法を確立し、ナノテクノロジー(超微細技術)を応用した世界で初めての飲料水用フィルターを開発した。インド国内では低コストで浄化した水の安定供給を実現した。国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)にも貢献する。インドではいまだに安全な飲料水の供給は大きな課題だ。その点からもとても優れた成果といえる。
文化・社会部門では、ネパールの音楽文化の保存に多大な貢献をしたラム・プラサド・カデル氏の業績が抜きんでていた。
ネパールの伝統音楽・芸能は、外来文化の流入、内戦、海外移民の増大などの要因により消滅の危機にさらされているが、私財を投じて収集した楽器資料をもとに、私設の楽器博物館を首都カトマンズに設立した。この博物館を拠点として、伝統音楽の研究、記録保存、普及で貢献した。
ネパールの音楽文化は未知の部分が多い。これから勢いを増すアジアの時代において、まだ知られていないアジアの芸術に光を当てることは本当に素晴らしいことだ。
今回も国内外のさまざまな団体や有識者のみなさまから多数のご推薦をいただき、高い見識と厳正な審査によって、素晴らしい受賞者を選出できた。ご協力に心から感謝を申し上げたい。
<2020年4月30日 日本経済新聞朝刊>