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第2回受賞者


第2回 日経アジアアワード受賞

Saathi

バナナで生理用品、使用後は堆肥に

第2回の受賞者は、自然素材による女性用の生理ナプキンを製造・販売するインドの新興企業、サーティ(Saathi)に決定した。事業を通じて生理用品の普及を目指し、インドの農村に住む女性が生理中にも就労や通学をできる環境を整え、女性たちの社会参加を後押しする。

インド西部グジャラート州にあるサーティの工場では、作業員たちがバナナの木から取り出した繊維を機械で加工していた。最終的に出来上がるのは肌触りのよい生理用ナプキンだ。

サーティは米国出身のクリスティン・カゲツ最高経営責任者(CEO)と、インド出身のタルン・ボスラ最高技術責任者(CTO)らによって2015年に設立された。社名の「サーティ(Saathi)」はヒンディー語で「お供」や「連れ合い」を意味する。生理用ナプキンの製造で、インドの女性をサポートする「パートナー」を目指す意味合いを込めた。

カゲツ氏はマサチューセッツ工科大学(MIT)在学中に初めてインドを訪れ、同国の社会課題の大きさを実感した。「薬局や食品雑貨店で簡単に生理用品が手に入るニューヨークから来た私にとって、インドの状況は非常にショッキングだった」。14年にハーバード大学経営大学院が主催するコンテストに友人と応募して最優秀賞を受賞し、起業のための最初の資金を得た。

クリスティン・カゲツ氏(左)/最高経営責任者(CEO)
タルン・ボスラ氏(右)/最高技術責任者(CTO)

インドでは女性首相や起業家も誕生しているが、世界経済フォーラムが発表する「ジェンダーギャップ指数」では146カ国中135位と、世界で最低水準にとどまる。農村部では生理をタブー視する風潮も根強く、女性は生理期間中の活動が著しく制約されて、通学や就労で大きな困難に直面している。

カゲツ氏によると、「私たちが事業を始めた当初の生理用品の使用率は2割弱だった」という。インドでは生理用品の普及は生死にも関わる問題だ。実際に農村では、生理用ナプキンの代わりに木の皮をあてるだけのこともあるといい、感染症などで健康を害する女性も後を絶たない。ナプキンの販売を通じて、生理を忌避するような社会の風潮の変化を狙う。

saathi
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サーティは生理用ナプキンを作る際に、プラスチックなどを使わず、バナナの葉や竹の繊維といった天然素材を使う。環境への配慮は起業当初から同社のミッションのひとつだ。

だが、単に環境配慮にとどまらないところに同社の技術革新のすごみがある。ボスラ氏は「穴を掘って捨てるだけで、数カ月で堆肥として利用できる」と話す。使い終わった生理用ナプキンは、農家にとって必要不可欠な肥料に化けるのだ。

詳しい製造工程は「社外秘」だが、同社によるとバナナや竹などの素材を使ってナプキンを作る技術で特許を取得したという。農家がもともとゴミとして廃棄していたバナナの茎などを原料として購入し、農家の現金収入増にも貢献する。

23年にも中国を抜いて、世界一の人口大国になる見通しのインドだけに、巨大な消費市場に目をつけた欧米や日系メーカーなども生理用品の販売を始めている。ライバルとの競争も激しさを増している。サーティの販売数は非公表だが、インド市場で一定の存在感を示す。

本社と生産拠点をニューデリーやムンバイなどの大都市ではなく、インド西部グジャラート州に置く。原材料となるバナナの木などを供給する農家とのネットワーク構築に加えて、農村の女性たちを支援することが念頭にあったからだ。農村に近い場所で製品開発し「女性の雇用も増やしていきたい」(カゲツ氏)。

インドだけでなく東南アジアなどの海外展開にも乗り出しており、「すでに半数近くは海外向けになっている」(ボスラ氏)という。インド発でアジアの女性の悩みを解決しようと志す。


生理用品の普及や利用の啓発も大切なミッションだ。17年には100万枚を一気に配布するキャンペーンも展開した。「オンラインだけでは商品の魅力などを伝えるのは難しい」(カゲツ氏)。環境関連のイベントにブースを設けて、ナプキンの肌触りなども丁寧に伝えていった。 同社のミッションをインドからアジア、世界に広げるため、カゲツ氏とボスラ氏は目下、国内外を奔走している。新たな資金調達によって、生産能力を引き上げようとしている。

カゲツ氏は「さらに女性の生理についての教育を広げて、規模を拡大していかなければならない」と意気込む。今後数年で利用者を1000万人にまで伸ばし、女性と農村の活躍機会の拡大に一層、力を注ぐ。

審査を終えて

SDGsの理念に合致した事業展開

avatar ceo

御手洗 冨士夫
キヤノン株式会社代表取締役会長兼社長CEO

インドのサーティ(Saathi)は、アジア各国・地域から寄せられた400を超える推薦の中から第2回日経アジアアワードの受賞者に選ばれた。女性向け生理用品の供給を通じて、地域の重要課題である公衆衛生の向上を目指しながら様々な社会課題に取り組むイノベーターである。

生理用品の普及は、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)分野で世界的に急務となっているテーマの一つである。コロナ禍を契機に、経済的理由で生理用品が入手できない「生理の貧困」の問題が注目を集めた。先進国・途上国を問わず通学や就労の障壁になるなど、待ったなしの状況が現存する。

プラスチック製品の環境負荷が指摘されるなか、同社が供給する商品は生分解・堆肥化が可能で、利用者の快適さも追求しているという。循環型経済や健康への影響を意識した事業展開は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の理念にも合致している。

高付加価値商品の提供とあわせて、同社は低所得者層を対象に廉価版を供給している。社会の格差への目配りからも、「誰一人取り残さない」といった創業者の熱意が伝わってくる。商品そのものに加え、生産拠点で女性を雇用するなど、事業を通じて女性のエンパワーメントに取り組んでいる点も評価したい。

日経アジアアワードのアドバイザリーボードは、様々な分野で活躍するアジアの有識者で構成されている。討論の場では、複数の観点から同社を高く評価する意見が出た。同社の活動が、多岐にわたる専門分野や知見を持つメンバーから幅広く支持を得たことは非常に意義深いと感じている。

同社の事業がこの先アジアから世界へと広がり、成長を遂げることを大いに期待したい。日経アジアアワードも受賞者とともに発展し、次回以降も有望な起業家や活動家らに光を当て続けていく。引き続き皆様からの熱い支援と有望な候補者の推薦をお願いしたい。

4th Winner

2024

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2024年6月16日 締切