最新の受賞者
Evermos
女性の自立、ECで支援
日本経済新聞社は「日経アジアアワード」の第3回の受賞者を、インドネシアで電子商取引(EC)プラットフォームを展開するエバモス(Evermos)に決定しました。エバモスは、職に恵まれない地方都市の女性などに雑貨や食料を販売する事業主になってもらうことで雇用を生み出し、女性の経済的な自立を支援してきました。
イスラム教徒向け
エバモスは2018年、ジャワ島西部のバンドンで設立されました。インドネシアの人口の9割近くを占めるイスラム教徒に特化した通販サービスを提供し、イスラム教徒が日常で使う、食料品や衣料品、雑貨などを取り扱っています。社名は「すべてのムスリムに日々必要なものを」という言葉からとったそうです。
地場の中小企業が品ぞろえを支えています。800社超がヒジャブ(女性が髪を隠すスカーフ)などの衣料品、イスラム教の戒律に従った「ハラル」対応の食料品などを供給しています。エバモスが物流網を整備することで、中小が単独で販路を開拓するよりも販売地域を広げることができます。
エバモスはインドネシアの中小の小売業や製造業の支援という目標を創業時から掲げています。アリップ・ティルタ社長は「中小事業者が抱える制限を取り除き、より効率的に最終消費者に製品を届ける仕組みを考えてきた」と語ります。
イルハム・タウフィク戦略部門最高責任者(左)
アリップ・ティルタ社長(中央)
イクバル・ムスリミン・サステナビリティ部門最高責任者(右)
事業者の7割女性
エバモスでは消費者が同社に直接商品を注文するのではなく、同プラットフォームに登録する60万人超に上る個人事業主が販売を担います。エバモスが提供するカタログなどを使い、SNSなどを通して商品を消費者に宣伝しています。
個人事業主は近所の人などから注文を受けると、エバモスのプラットフォームで商品や顧客の住所などを入力して発注します。商品は直接消費者に届き、一連の取引が終わると手数料が事業主に支払われる仕組みです。事業主は商品の仕入れなどの負担がなく、スマートフォンさえあれば手軽にビジネスを始められます。
登録者の7割は女性で、多くが地方都市に暮らしています。専業主婦など初めてビジネスを手掛ける人も多く、エバモスは販売や営業などのスキル向上を手助けすることで、自社と個人事業主の双方の成長につなげてきました。
同社は専門の研修チームを抱え、登録者に対してアプリの使い方やSNSを活用した広告手法などさまざまな講座を行っています。オンラインでの実施も含め、年間1000回以上になるそうです。
事業主が小規模なコミュニティーを形成し、スキルを高め合う活動も支援しています。販売成績などで優れた事業主がリーダーとなり、近隣の事業主が定期的に集まり、経験談やビジネスの知識を共有する機会を提供します。コミュニティー数は全国で1000以上となり、この大半で女性がリーダーを務めているそうです。
インドネシア中央統計局の統計によれば、労働人口に占める小学校卒の割合は約4割を占めます。就職や起業に必要な技能を学ぶ職業訓練の必要性が叫ばれて久しく、エバモスは個人事業主に研修や教育を積極的に提供することで社会的価値を生み出しています。
世銀系が56億円出資
インドネシアでは多くの新興国と同様、首都ジャカルタが先進国並みの発展を遂げましたが、地方都市・農村が経済的に取り残される問題が生じています。地方などでは仕事の選択肢は限られ、女性が収入を得られる機会も少ないです。新型コロナウイルスの感染が広がった際には夫が職を失い、打撃を受けた家族も多くありました。
こうした状況下で、エバモスは女性が収入を得て経済的に自立できる環境をビジネスを通じて実現してきました。世界銀行グループの国際金融公社(IFC)の報告書によれば、エバモスに登録する事業主は、月平均43ドル(約6100円)の収入を得ているそうです。営業成績のよい事業主の収入は月に191ドルに上ります。
事業主の中には販売で成果を上げた後に自分のブランドを立ち上げて商品を開発・生産する側に回るケースも出ているそうです。アリップ氏は「優秀な事業主はどんな商品が売れるかを熟知している」とし、この動きの広がりに期待を込めています。
IFCなどは5月、エバモスに約56億円を出資しました。女性の経済的自立を支援するソーシャルビジネスとしての側面も評価されました。
エバモスは調達で得た資金を活用し、事業エリアを拡大させています。現在はジャワ島が中心ですが、西部のスマトラ島でも物流体制などを整備しており、マレーシアへの進出も検討しています。人工知能(AI)などの技術開発も拡充する方針です。
アリップ氏は個人事業主を「3〜5年内に100万人まで増やす」と語ります。個人事業主の裾野が広がれば、エバモスに商品を供給する中小製造業の成長にもつながります。ビジネスと社会問題の解決の両立に向けた挑戦は続きます。
4th Winner
2024
Who's Next?
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自薦は認めていません。
審査を終えて
貧困世帯60万人に就労機会 確かな意義
御手洗 冨士夫
キヤノン株式会社代表取締役会長兼社長CEO
第3回日経アジアアワードは、インドネシアのエバモス(Evermos)がアジア各国・地域から寄せられた244件の推薦の中から受賞団体に選ばれた。同社は電子商取引プラットフォームを通じて地方の女性らを支援するスタートアップである。
通常はインドネシアの地方都市で小売業に新規参入するには約15万円の開業資金が必要とされる。エバモスの事業モデルは資金不要で、開業のためのトレーニングの機会を個人に無償提供している。
これにより、新型コロナウイルス禍で働き手を失ったインドネシアの地方都市の多くの家庭で、主に主婦らが新たな職を得て家計を支えることができた。電子商取引のプラットフォーム自体はアジア地域でも一定の広がりを見せ、同種のサービスを提供しているスタートアップも多い。
ただ、エバモスは地方で貧困に苦しむ世帯、ビジネススキルを磨く機会に恵まれなかった多くの人々に職業をもたらした点が特筆に値する。支援対象は60万人を超えるまでに拡大し、その多くが女性という実態は同社の活動に確かな社会的意義を与えている。
エバモス自体も聖水や衣類などインドネシア国民の生活必需品を製造・販売することで自社の事業基盤を支えている。マレーシアへの進出も検討しており、堅実かつ持続的な成長が期待できる。新たに職を得られる人々が国境を越えてさらに増えていく好循環が生まれそうだ。
日経アジアアワードは今回で3回を数え、受賞者は第1回のエビ培養肉ベンチャー企業のシオック・ミーツ(Shiok Meats)、第2回の生理用品の企画・製造・販売を手掛けるスタートアップ企業サーティ(Saathi)に、今回のエバモスと個性豊かな顔ぶれがそろった。受賞団体の拠点国もシンガポール、インド、インドネシアへと広がった。
アジアの有識者らで構成する日経アジアアワードのアドバイザリーボードも日本だけでなくインド、タイ、シンガポールなどメンバーの国籍は多様性に富む。活発な議論を踏まえて選出されるアジアの新星を支援できることは無二の喜びである。