最新の受賞者
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竹製住宅「スマホ価格」で避難民を支援し地域に活力
日本経済新聞社は、第4回「日経アジアアワード」の大賞を、ミャンマーで竹製住宅を建設する新興企業「ハウジングナウ(Housing NOW)」に授与いたしました。同社は、環境に優しい竹を活用し、短期間で建設可能な低価格住宅を提供しています。1棟あたり約1,000ドル(約15万円)からの価格で避難民施設や診療所を建設し、貧困層を製造プロセスに巻き込むことで、地域社会の活性化にも寄与しています。
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ラファエル・アスコリ共同創業者(左)
チョージンラット共同創業者
社会課題への挑戦
ハウジングナウの設立は、2021年のミャンマー国内での政変後に遡ります。共同創業者のフランス人建築家ラファエル・アスコリ氏と、ミャンマー人竹加工技術者のチョージンラット氏は、国内で急増する避難民のために住宅や診療所を提供するべく、この企業を立ち上げました。
ミャンマー中部のマンダレーで進められている竹製住宅のプロジェクトでは、避難民にも建設作業に加わってもらい、短期間ながら就労を通じて本人のやりがいやノウハウの伝承に繋げる機会を提供しています。これにより、地域社会の再建だけでなく、避難民一人ひとりの生活再建にも貢献しています。
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環境に優しい持続可能な建築
ハウジングナウが使用する竹は、ミャンマー国内の村々から購入されています。竹は成長が早く、刈り取っても再生が可能であり、地域住民に持続的な収入をもたらす素材です。また、建設拠点では、竹の防虫処理やプレハブ加工を行い、高い耐久性とコスト競争力を実現しています。
ハウジングナウの施設では、竹を防虫処理し、部材のプレファブ加工を行うことで、耐久性とコスト効率を向上させています。これにより、構造物の長寿命化が図られるだけでなく、迅速な組み立てが可能となり、緊急の住宅ニーズにより効果的に対応できるようになります。
国際的な評価と今後の展望
ハウジングナウは、その取り組みが国際的に評価され、2022年には米マサチューセッツ工科大学の「MIT Solve」に選出されました。また、2023年にはアスコリ氏が国連児童基金(ユニセフ)より「未来を形作る若きイノベーター」の一人に選ばれ表彰されています。
ミャンマーは、1人当たりの国内総生産(GDP)が約1,000ドル強と低い水準ですが、若年層が多く「伸びしろ大国」とされています。アスコリ氏は「竹を通じて国の再建に貢献したい」と語り、国際的な協力も呼びかけています。
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5th Winner
2025
Who's Next?
本サイトを通じ候補者を幅広く募集します。
自薦は認めていません。
審査を終えて
実用性や技術伝承、革新的要素満ちる
御手洗 冨士夫
キヤノン株式会社代表取締役会長兼社長CEO
第4回日経アジアアワードはミャンマーで竹製住宅の建設を手掛ける「ハウジングナウ」がアジア各国・地域から寄せられた107件の推薦の中から受賞団体に選ばれた。
同国では2021年2月の軍事クーデター以降、自宅を失った国内避難民が300万人を超えたとされる。そんな窮状に手を差し伸べたのが同年10月創設のハウジングナウだ。
容易に手に入る竹を主材料に用い、プレハブとコミュニティーによる作業参加を組み合わせたハイブリッドな建設手法を用いる。フランス人建築家のラファエル・アスコリ氏が地元の伝統工芸である竹加工の技術者であるミャンマー人のチョージンラット氏らを共同創業者に迎え、労働力の多くは国内避難民キャンプからも採用。洗練された建築意匠と優れた実用性、そして避難民への技術伝承という多様な特性を持つこの事業はイノベーティブな要素に満ちている。
現在の世界を見渡せば、残念ながら紛争や自然災害などで住宅難に直面する人々は増えている状況にある。竹はアジア、アフリカ、南北米大陸などに広く自生しており、この技術が各地で問題解決に資する可能性は大いにある。実際、ハウジングナウはマダガスカルなどへの技術輸出を検討中だ。人間の尊厳を守るこうした取り組みが広がることを願ってやまない。
日経アジアアワードは今回で4回を数え、初回のエビ培養肉ベンチャーから、生理用品の企画・製造・販売のスタートアップ、地方の女性を支援する電子商取引プラットフォーム、そしてハウジングナウと多彩な顔ぶれがそろった。受賞団体の拠点国もシンガポール、インド、インドネシア、ミャンマーへとさらに広がった。
回を重ねるごとに推薦で寄せられる団体や個人の活動の質が上がっていると実感する。このアワードの存在が広くアジア地域に浸透し始めていることの証左とも言えるのではないか。
最終候補はどれも甲乙つけがたく、普遍的な価値を感じた。今後も日経アジアアワードのアドバイザリーボードの委員長として、勢いあふれるイノベーションの新星たちに出会えることを楽しみにしている。